切手で旅する世界の鉄道

 今年のゴールデンウィーク新型インフルエンザの流行にモロに被ってしまったので、海外乗り鉄に行きたかったけど断念した、なんていう人はけっこう多いんじゃないでしょうか。私もカレンダー通りではないにしても連休を取って、ウズベキスタンか中国−ベトナム陸路国境越えの旅をしたかったんですが、職場で「海外渡航禁止令」が…。
 その恨み?を晴らすというわけでもありませんが、外国、特にあまり日本で知られていない国の本や模型や写真なんかはないかなあ、とネットをさまよっていたら、とあるモノを発見しました。
 切手です。
 ウズベクの首都、タシケントの地下鉄について調べていたら、「郵趣サービス社」の「スタマガネット」という通販サイトの「タシケント地下鉄30周年記念切手」に行き当たったのです。サイト内を回ってみると、ほかにもウクライナだのシリアだの、なかなか本や写真でもお目にかかれないような鉄道の切手がいろいろあります。これはなかなか面白い。
 ということで、速攻で購入したのが以下にご紹介する切手たち。

  • トルコ


 「鉄」的には割と印象の薄い国ですが、旅好きの人なら「トルコは良かった」という旅行者に一度は会ったことがあるでしょう。テヘランイスタンブールを結ぶ国際列車「トランスアジアエクスプレス」なんて、ぜひ乗ってみたいです。
 この切手はトルコの代表的な駅と車両が絵柄で、上がイスタンブール・ハイダルパシャ駅(アジア側)、下が同じくイスタンブールのシルケジ駅(ヨーロッパ側)。シルケジ駅はかつて「オリエント・エクスプレス」の終着駅だったところですね。そういえば市内に「オリエントエクスプレス」というホテルがあるとか。
 車両はトルコ国鉄(TCDD)が誇る最新の高速列車、HT65000です。「軌間可変電車」として知られるスペインのS120(Alvia)とそっくりですが、それもそのはず、この車両はスペインのCAF製で、軌間可変機構がなく、編成両数がスペインの4連に対し6連になっていることなどを除けばほぼ同じ車両です。イスタンブールアンカラ間の高速新線用に発注され、最高速度は260km/h。同新線の一部区間が開業した今年の3月から営業運転に入っています。(参考=TCDD公式サイト
 ということは、ひょっとしてこの切手は高速列車運行開始記念なのかも。


 かつての共産圏の車両って、独特な造形でちょっと興味を惹かれるものがあります。そんなわけで、旧ソ連タイプの車両が描かれたウクライナディーゼル機関車シリーズ切手は見た瞬間に購入ボタン押下操作実行。写真ではなく絵ですが、かなりリアルで色もカラフル、車両の資料としても上出来です。
 左上は今でも旧東欧諸国をはじめキューバ北朝鮮でも使われている(らしい)M62。旧東ドイツではあまりのエンジンのうるささと特徴ある音に「タイガの太鼓」と呼ばれていたなんて話も目にします。この機関車はなんだか好きで一度実物を見てみたいと思ってるんですが、そんなにうるさいんでしょうかね?
 隣はTE109。DBのBR232と同じです。旧共産圏の技術が西側で活躍する好例? ウクライナでは丸っこいボディに載せ変えたリニューアル車も登場しているようです。
 左下は2車体連結の2TE10P、その隣はTEP10。上の2枚とは違い、背景には冬の凍てつく大地が描かれていて、いかにもウクライナ、という感じ。この2形式、恐らく関連のある形式なんでしょうが、前面こそ似ているとはいえ側面は大分違います。旧ソ連タイプの車両はいろいろ知りたいことがあるんですが、資料がだいたいロシア語ってのがネック。


 行きたかった…。
 中央アジア唯一の地下鉄、タシケント地下鉄の30周年(2007年)を記念した切手。駅の装飾がものすごく美しいそうで、この切手にもイスラム風の意匠を施した柱や壁のタイルが描かれています。車両はブラックフェイスで側面にリブの入った旧ソ連タイプの電車が写っています。
 行ったらぜひ各駅を見て回りたいんですが、ウズベク旅行記やガイドなんかを見ると「警官が難癖つけて金をせびろうとするので要注意」らしい…。写真撮影も禁止だそうです。となると、もし行ったとしても、記録はこの切手くらいか?


 シリアの首都・ダマスカスからヨルダンを経てイスラム教第2の聖地、サウジアラビアメディナまでを結んでいた路線の開業100周年記念切手(2008年)です。
 建設されたのはオスマン帝国時代で、しかも実際に全路線が運行されていたのは第一次大戦中まで。サウジ国内の区間はかの「アラビアのロレンス」が破壊して以降運転されておらず、ロレンスが襲撃した列車の残骸がそのまま残っているというからなんだかちょっとロマンがありますね。一応ヨルダン、シリア国内には残っていることになっていて、トーマスクックのoverseas timetableを見ると一応時刻が出ていますが、「service temporalily suspended」だそうです。ちなみにヨルダン国内にはリン鉱石運搬を行う現役の支線(アカバ鉄道)もあって、これは以前NHKのドキュメンタリー番組でも取り上げられていました。
 切手に描かれているのは蒸機。タンク機が4両の客車を牽いてなかなか雄大なアンダートラス鉄橋を渡る構図です。シリア、ヨルダン国内の路線はヘンシェル製だかの現役蒸機が残っていてチャーターにも応じるとかで、一時期世界の蒸機ヲタに注目されていたようですが、今はどうなんでしょう。


 TAZARA30周年の記念切手。「TAZARA」ってなんだ?という感じですが、日本の中学校で地理を習った人は大体知っているはず。「タンザン鉄道」のことです。
 この鉄道が中国の援助で造られたというのは、それこそ地理の教科書にも載っていたので有名でしょうが、この切手も中国製で、一番上には中国国旗が描かれ、「坦賛鉄路30周年」やら「河南省郵電印刷廠」の文字が入っています。
 鉄道自体は有名ながらどんな車両が走っているかはよくわからないので切手に期待していたのですが、車両はあまり写ってませんね。世界中を旅しているバックパッカーの人のサイトなんかで見てみると、白をベースに窓周り青、その下に細い赤ラインの客車が写っているのがあったので、廃止された雲南省のナローの客車なんかが中古で入ってきてるんじゃないか、と思うんですが…。機関車はGEのU30Cが使われているようです。中段の左側に描かれている建物はタンザニアダルエスサラーム駅、右側がザンビア側のニューカピリムポシ駅(首都ルサカからはだいぶ離れているのが不思議)。どちらもかなり立派な駅舎です。
 wikipedia(英語版)によるとTAZARAは金融危機の影響で運営がかなり厳しくなっているようです。前は一応公式サイトもあったのに今は「Under Construction」になってるし、大丈夫でしょうか?


 鉄道と郵便というのは何気に深いかかわりがあります。日本でも郵便番号はかつての鉄道輸送ルートを基に付けたなんて聞いた事がありますし、外国だとフランスには郵便輸送専用のTGV「La Poste」があるのは有名ですね。イギリス英語圏優等列車を「Mail Train」と呼ぶのは(インドなんか○○mailって列車がたくさんありますね)郵便輸送用の最速の列車だったことから来ていたりと、まあ例を挙げればキリがありません。
 「鉄」も凝り性の人が多いから、切手コレクターもけっこういるんじゃないでしょうか?私はイタリアの列車と同等の大ざっぱな性格なので「コレクション」ってのをちゃんとできない人なんですが、こういう知られざる国の鉄道切手はちょっと集めてみたいかも、と思った次第。