世界最長国際列車で北朝鮮に潜入!

 すごいレポートを見つけてしまった。

 タイトルは「The forbidden railway - a train trip to Pyongyang」
 2008年9月、オーストリアから鉄道でユーラシア大陸を横断し、通常は外国人が通れないとされるロシア/北朝鮮国境を列車で越え、これまた通常なら強制的にガイド付きとなるはずの北朝鮮国内を丸1日以上「自由旅行」したという、かなりアドベンチャー旅行記です。


 著者はオーストリア人の鉄ちゃんで、職業も鉄道関係(OBB職員)のHelmutさん(28歳)。ユーラシア大陸の鉄道が好きで、東欧や旧ソ連諸国を旅するうちに北朝鮮の鉄道に興味を持ったとか。中でも通常は外国人が通れないとされるハサン(ロシア)−豆満江北朝鮮)間の「豆満江ルート」での国境越えに惹かれ、06年には「実験」として、ロシア国内を走る北朝鮮行き国際列車に乗ってシベリア旅行をしたそうです。
 そして08年、友人のスイス人鉄(この人はSBB職員)と2人でついに「念願」を実行。乗れないはずの列車、通れないはずの国境を通って北に行ったぞ!というのがこの記録です。英文ですが、難しい表現がないのでかなり読みやすく、全旅程(けっこう長い)を一気に読んでしまいました。


 彼らが乗ったのは、モスクワ発平壌行きの直通寝台車。北朝鮮国鉄の車両で、モスクワ−ウスリースク間はロシア鉄道(RZD)の「ロシア号」ウラジオストック行き、ウスリースク−ハサン間はローカル列車に併結され、国境区間は単独で越えた後、北朝鮮国内は同国鉄の7列車平壌行きに併結、という行程。走行距離は1万キロを越える世界最長距離の列車で、時刻表通り走ったとしても片道10日間の長旅です。

 2人はモスクワから全区間乗ったわけではなく、ロシア国内のイルクーツクからこの客車に乗車。最初は乗車拒否されそうになったり、車掌に珍しがられたりしながら、本当に入れるのかどうかわからない北朝鮮へと向かいます。実際には緊張の連続だったのかもしれませんが、意外にあっさり入国できたようで、しかも写真も撮りまくりです(何しろ監視員=ガイドがいない)。
 通常、外国人旅行者が列車で北朝鮮に行く場合に通るのは、中朝国境を越えて新義州から平壌へ至る「平義線」で、この沿線は外国人が通ることを警戒して見せ掛けだけのきれいなインチキ住宅とかを並べてあるらしいですが、彼らが通った路線は当然ながら「外国人の目」を考えていない普通の路線です。中国やロシアと似ているようでいて異なる客車や機関車、元平壌地下鉄の電車を無理やり改造したと思われる通勤電車といった珍しい車両の写真もさることながら、「外国人向け見世物」ではない「人民の生活」にも興味深いものがあります。車窓に見える人々は「貧しいが栄養失調には見えない」そうですが、夜は住宅も駅も真っ暗だとか。旅客列車は彼らの乗った列車も含め一応ちゃんと走っているようですが、貨物列車は少なく編成も短いそうで、普通の人々が暮らすためのエネルギーや物資はやっぱり足りていないのだろうなあ、と想像できます。


 ジャーナリストでもなかなかやらないであろうこの「冒険」旅行、当然の如く気になるのは「どうやってチケット取れたの?」ということですが、この人はモスクワのチケットオフィスに友人がいるそうで、そのせいかどうかは分かりませんが特に問題なく買えています。「よく国境で追い返されなかったもんだ」とも思いますが、この国境(豆満江)は1994年以降外国人には開放されていないものの、ビザには依然出入国地点として記載されているため、入国自体が「完全に違法」というわけではないそうです。
 ただし、危ない橋を渡っていることは確実で、実際に旅行後に「この旅行は北朝鮮の旅行社の中で深刻な問題を引き起こした」という旨のメールが旅行会社から来たようです。加えて「同じことをやって成功する保障はありません」「おすすめしません」と何度も書かれています。


 しかし、モスクワ−平壌間の直通客車、ちゃんと運行されているんですね。私がこの「世界最長距離国際列車」のことを知ったのは、2007年に出版された「将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情」という本だったんですが、この中で

 このほか7/8列車が時刻表上で紹介されているが、北朝鮮内の平羅線の整備状況が劣悪で定時運行ができないため、2004年時点では恐らくモスクワからの列車はロシア側国境の町のハサンで打ち切られ、北朝鮮国内へは別の列車が接続していると思われる。

 という記述があって、そうか1万キロオーバーの国際列車はもう走ってないのか、と思っていたんですが、まさか実際に乗った人(北朝鮮人以外)がいるなんて。本当に驚きです。


 すごい!と思うか危険を顧みないバカと思うかは人それぞれでしょうが(今の日本では後者のほうが多いだろうなあ)、貴重な旅行記なのは間違いないので興味のある方はマジで一読をお勧めします。