中国高速鉄道事故覚え書き

 ご無沙汰しております。
 23日に発生した中国浙江省での高速鉄道事故後、こんなに放置しているにも関わらずこのブログのアクセス数が連日過去最多です。過去に書いた中国の高速鉄道関連の記事や、新サイトに載せたCRH380A乗車記へのリンクがあるからでしょうか。しかし過去最多アクセスがこんな悲惨な事故が引き金になるとは…。
 上記の乗車記の最後には、中国高速鉄道の今後の懸念として「ただし、開業後十数年間大規模トラブルを起こさず、クオリティを維持できるなら…」と書いたのですが、あまりにも早くこんな事態になり非常に残念です。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

 ちょっと時間がないので覚え書き程度ですが、以下に自分が気になっている点など。

  • 車両

 報道を見ていると、未だに当局は正式発表してないんですかね。情報を整理。

・突っ込まれた方(D3115次:杭州発福州南行き)
 CRH1B(CRH1-046B編成)。ボンバルディア+南車四方(BST)製造。ボンバルディアは本社がカナダなので、報道では「カナダの技術で〜」という記述が多いですが、車両自体は同社がスウェーデン向けに製造した「Regina」がベースです(ボンバルディア社の「Regina」解説ページはこちら)。ボンバルって各国のメーカーを買収合併して大きくなった企業だしReginaは欧州の工場で製造しただろうから「カナダの」と言われると多少の違和感がなくもない。いや間違っちゃあいないですが。

・突っ込んだ方(D301次:北京南発福州行き)
 CRH2E(CRH2-139E編成)。南車四方製造。「はやて」E2-1000番代ベースのCRH2の寝台タイプ。ちなみに登場時の南車の情報によれば車内照明には大々的にLEDを使っているそうで、まあその辺が「独自開発」といいたいんでしょうか。

  • 信号システム

 中国の高速鉄道は、パクリ新幹線で知られる通り車両は日本(川重)・シーメンスボンバルディアアルストムと各国の技術を揃えて(パクって)いますが、信号・軌道系統は基本的にヨーロッパ由来のものが目立ちます。スラブ軌道はドイツのRheda2000とかをベースに何種類か採用して(京津高鉄は別のドイツ系技術)国産化しているようだし、信号技術はヨーロッパのERTMSがベースです。特に最高速度350km/h対応の路線は、速度指示とかの地上―列車間通信に無線(第2世代携帯電話GSMと同じ電波方式で、鉄道用に改良したGMS-R)を使った、ヨーロッパの高速新線などで採用が進む「ETCSレベル2」準拠の「CTCS-3」を使っています*1。 まあ、自分が上海〜杭州間乗ったときは、運転台に表示されてる指示速度は350km/hなのに、355km/hで走っててブレーキ作動とかしなかったですけどね…。

 探しても情報が見つからないんですが、当該路線は最高速度250km/hなので、これより一段階下の「CTCS-2」を使っているんじゃないでしょうか。CTCS2については探してみるとこんな資料(pdf)がありましたが、要するにGSM-Rによる通信機能はなしで、軌道回路と地上子と車上設備とコントロールセンターで構成され、というようなことが書いてあるので、ATS-Pに近いものと想像。どこらへんまでが中国独自技術なんでしょうか。あと、CTCS2の車上装置は中国と合弁で日立が170編成分を造っていますね(日立の海外事業プレゼン資料(pdf、32ページ)。当該車両の車上装置はどうだったんでしょうか。

 報道によれば後続列車は先行列車が停車しているのを知らずに突っ込んだようです。運転士が非常ブレーキをかけた、という話もあります。「落雷が原因」で片付けられそうな気配もありますが、落雷しようが何しようが、故障したら「列車がその区間に存在する(在線)」のを示すのが軌道回路の基本のはずなので、先の区間が列車で埋まっていれば「赤信号」の状態になるはず。自動停止装置が故障云々の前に、基本的な信号すら壊れていたんでしょうか?日本で追突事故っていうと、ここ20年くらいは1997年の東海道線沼津の事故とか、だいたい無閉塞運転中ですよね。

 ちなみにこれで思い出したのは2年前にワシントンDCの地下鉄であった追突事故で、この事故では同線は自動運転にもかかわらず軌道回路故障で先行列車が検出できなくなっていて、後続列車がフルスピードで(運転士は非常ブレーキを操作)突っ込んでいます。海外の鉄道は軌道回路の信頼性がいまいち?

 個人的には、何気にヨーロッパの信号技術関連の人たちはけっこう気をもんでるんじゃないかと思います。なにしろ彼らは「中国は欧州信号システムの仲間だよ!」って認めちゃってるし(pdf)。欧州の機関が原因究明に協力するような動きがあればと思いますが、中国だからなあ…。

 とにかくこの事故は信号システムに焦点が絞られてきています。しっかり解明して頂きたいです。

*1:ETCS level2=固定閉塞用。列車の位置検知はふつうに軌道回路。車載コンピュータは無電源の地上子から位置情報(や、カーブとか元々の速度制限などのマーカー)を取得して、プログラムに基づき制御。ATC信号みたいな速度指示を送ってくるのがGSM-Rの電波。ということだと思います…。あってるかな