メルクリンが経営破たん

 今年で創業150年を迎えたドイツ、いやヨーロッパ、いや世界を代表する鉄道模型メーカーのメルクリンが4日(ドイツ時間)、裁判所に破産手続きを申請し経営破たん。(参考=日経ドイツ誌Spiegel英語版


 2006年にイギリスの投資ファンドに売却された時も「ヨーロッパの鉄道模型業界もそこまで来ちゃったか」と驚いたし、最近になってミリタリーモデルへ進出したのを見て「鉄道模型だけじゃきついんだろうなあ」と思ったりしてはいましたが、まさかこんな日が来ようとは…。経営破たんに至った理由は、1月末に期限が切れた5000万ユーロの融資枠をめぐる金融機関との交渉が不調に終わったため、ということのようです。

 ヨーロッパ鉄道模型ファンには(たとえメルクリンユーザーでなくても)世も末といえるニュースですが、当面事業は継続し、管財人の下で再建策を探るとのことなので「メルクリン消滅」という事態は避けられそうで、その点では一安心です。今はちょうどニュルンベルグ・メッセ*1の期間ですが、モデルバーンのサイトによると、同社は通常通り出展していて、新製品も含め出荷も通常通り行われるとのことですので、製品供給の面でもひとまずは安心していいようです。


 今回の経営破たんについては、「コンピューターゲームなどに押され経営が悪化…」という見方が一般的なようです。もちろん影響は受けているのでしょうが、果たしてそれだけが理由なんでしょうか。確かに年少の入門者はそれで減るでしょうが、いわゆる「マニア」層にはあまり関係ないでしょうし、何よりコンピューターゲームとの競合なら30年近く前から始まっているはずです。私はここ数年のヨーロッパ鉄道模型メーカーの相次ぐ経営破たん・再編を見ていると、どちらかといえば従来の鉄道模型メーカーの経営体質の問題が大きいんじゃないかという気もします。Spiegel誌の記事によれば、2008年のメルクリンの総売上高は1億2800万ユーロ(約151億円)ということなので、模型がそれほど急激に売れなくなったとは思えません。
 21世紀に入ってから、ヨーロッパの鉄道模型メーカーはリストラの嵐が吹き荒れています。2004年にはイタリアのリバロッシ・グループ、オーストリアのロコ、07年には大型鉄道模型のLGBが経営破たん、08年にはドイツのフライシュマンが経営悪化でロコの親会社に身売り…。「大手」と呼べるヨーロッパのメーカーで10年前と同じ経営体制を維持している会社はもはやありません。そんな中で、英ホーンビィに買収された現在のリバロッシや、かつてはオーストリアのメーカーで現在は米バックマン傘下のリリプットは、昔より製品の水準も上がり、比較的順調な経営を保っているように見えます(見えるだけかもしれないが)。ホーンビィ、バックマンは、ブランドとしてはメルクリンに敵わないでしょうが、企業としての規模・経営体制では前2社のほうが上でしょう(どちらも上場企業のはず)。結局のところ、大手といえどもヨーロッパのほとんどのメーカーは、個人経営の模型工房的体質を脱しきれていなかったのではないかと思えます。


 私がヨーロッパ製の鉄道模型を初めて手に入れたのはもう20年近く前になりますが、その頃は世界中の鉄道模型の中で最もコストパフォーマンスが優れていたのはヨーロッパ製品だったと思います。当時、日本型(N)はカタログに掲載されていても絶版だったり手に入らないものが多く、アメリカ型は現在のような中国製精密プラ製品が普及する前で、高級モデルではない一般のプラ製品では、窓ガラスもはめ込み式でないようなモデルが多数でした。そんな中、ヨーロッパ型は機能面でもデジタルコントロールやショートカプラーといった新機構が意欲的に採用され、「やっぱり鉄道模型の本場はヨーロッパだなあ」と思っていたのですが、この20年間で、特にアメリカ型が急速に進化したのに対してヨーロッパ型の地位は緩やかに低下してきている感じがします。

 例えば「製品の充実」という点でも、ここ10年、実物のヨーロッパの鉄道は従来の客車列車に代わり、低床式の新型電車・ディーゼルカーなどが続々登場しているのに対し、模型の世界ではフライシュマンのLINT41(アルストム製の連接ディーゼルカー)や、リリプットが発売したFLIRT(スイスSteadler製の連接電車)など、最近になってやっと登場してきたという感じです。以前はICEが運行開始したらICEのモデル、TGV Duplexが走りだしたらそのモデル…といったように、割とすぐに話題の車両がモデル化されていたように思います。「新型より往年の名車を…」という声も多いのでしょうが、実物の新型車が模型でも新製品としてリリースされる、というのは、特に実車を普段から目にしている現地のファン(主力購買層)へのアピールとしては必要なんじゃないでしょうか。
 また、新型車両に限らず、予告されながらいつまで経っても出てこない製品も少なからず見受けられます。「欲しいものが出てこない」→買わない→売れない→新製品が出せない、という悪循環に陥っているんじゃないかとも思えるのです。

 なにはともあれ、メルクリンブランドが今後も安定して存続されることを祈るばかりです。

*1:ドイツのニュルンベルグで年に一度開かれる、ヨーロッパ最大の模型見本市