恭喜發財 香港鉄紀行2009 Vol.1 香港トラム編

 今年の春節は1月26日。たまたま冬休みがこの時期に取れたので、本場の春節を見てみようと香港に行ってきました。

 最初は中国本土、北京あたりに行こうかと思ったんですが(北京−天津高速鉄道に乗りたいし)、春節は店もみんな閉まって静まり返ってしまうとよく聞くので、何となく多少は賑わってそうな香港へ。春節の街を見てみよう、というのが主目的なので特に鉄活動をするつもりはなかったんですが、やっぱり香港は乗り物が楽しい街ですね。結局はトラムだのなんだのと追っかけまわしてしまいました。



 「鉄」にとって香港といえばやっぱりコレですね。有名な2階建て路面電車。某ガイドブックには「世界でもここだけ」とありましたが、正確には「全車が2階建て電車」なのは香港だけ。2階建て路面電車は、イギリス・ブラックプールやエジプト・アレキサンドリアにもあります。
 普通の鉄道では広告電車はあまり好きじゃないんですが、この街では特別、というか香港のトラムはこうでなくては。竹で足場を組んだ工事現場がいかにも香港っぽいです。


 トラムは後ろ乗り前降り、全線均一2HK$。車体は両運転台ですが、事実上は片側運転台で終点ではループ線で折り返します。旅行者にとっては、全部の停留所に停まってくれるのがバスより安心して乗れるポイントでしょう。前回の香港訪問時にももちろん乗りましたが、今回はトラムの沿線に宿を取ったので、どこへ行くにも2階建て電車のお世話に。おかげでたった2泊とはいえ、街に溶け込むように走るトラムの魅力を感じることができました。



 こんな広告電車もありました。ほたて。後ろの建物はルイ・ヴィトン、隣はティファニー。ミスマッチなようですが、香港だとそういうのもなぜか違和感なく受け入れられる気がします。



 トラムは釣り掛け駆動の2軸車ですが、加減速性能はなかなかのもの。運ちゃんのテクもかなりのもので、先行の電車に追いついてしまっても車間距離はギリギリまで詰めてます。こうなると、まるで4両編成のよう。
 香港に生まれてたらトラムの運転士になりたかったです。あ、運転士採用してるんだ…

  • 120号車との遭遇

 適当に街を歩いていたら、幸運にも120号車に遭遇!

 現在、香港トラムの主力は1950年代に製造された車両を80年代後半〜90年代にかけて車体更新したタイプですが、120号車は唯一車体更新を受けず、50年代製造当時のボディを残す最古参。木製ニス塗りの窓枠、白熱灯の車内照明と、昔ながらの雰囲気を伝える貴重な車両です。
 車体広告も、現在主流となっている1社提供の全面塗装ではなく、窓下に複数の広告を混載した昔ながらの仕様です。

 トラムは全部で163両あるそうですが、その中でたった1両のコイツに遭遇するチャンスというのはそうそうあるもんじゃないのです。というわけで赤信号をものともせず電停に突進してさっそく乗車。



 120号車の2階席。昔の喫茶店のような籐製のイスや白熱灯の照明、明るい緑と白に塗り分けられたインテリアがレトロな雰囲気です。電車というより旧い船のキャビンのような感じもします。
 車体更新車との構造上の大きな違いは階段の位置で、更新車は入口から乗って奥(進行方向右側)に階段があるのに対し、120号車は手前(左側)に階段があります。前方の階段は120号車、更新車とも右側。つまり更新車は階段が2ヵ所とも右側で左右非対称ですが、120号車は点対称です。



 これは更新車の室内。屋根の垂木が木製ニス塗り仕上げだったりするのは120号車と同じですが、座席がプラスチック製、照明も蛍光灯になっています。座席配置も120号車は2人掛け+1人掛けですが、こちらは1+2で逆ですね。

  • 香港電車下町風情

 120号車は「北角」行き。ここは線路が市場のある通りを突っ切っていく、いかにもアジアのパワーに溢れた場所です。ここを120号車が通る風景を見てみようと、特に用もないのにこの電車の終点・北角まで行ってみることに。
 市場の手前で降り、先回りして電車がやってくるのを待ちます。


 高層アパートの谷間、人の群れをかきわけて進む電車。


 この日は「大晦日」にあたる日で、正午の市場は年末の買出しで大賑わいです。電車がのろのろと通り過ぎると、後ろはすぐに人だらけ。


 「そこのけそこのけ」というよりは「ちょっと通してもらえますかねえ」という感じ。


 あー、アジアの活気だなあ。こういう風景、大好きです。


 釣り掛けモーターの音も市場の賑わいにかき消され、電車は歩くようなスピードで進んでいきます。街に溶け込むように走る、というのはこういうことなんでしょうね。

  • 夜の街を走る

 家路を急ぐ人々を乗せて、夕暮れの街を疾走。

 この日(1月25日)は、大晦日にあたる日だけあって翌日午前3時まで延長運転。これは電停にあった、終電延長と一部電停の閉鎖を知らせる張り紙です。


 ちなみにMTR*1はほぼ全線で終夜運転、普段から一部ルートで夜通し走っているバスも多くの路線で終夜運転していました。
 私はトラムの延長運転の時間を勘違いしていて終電に間に合わず、一本裏の通りを走るバスで宿に戻るはめに…。


 夜の電停に佇むトラム。

 これは前回(2007年8月)訪問時に撮影した動画です。すれ違いがけっこうスリリング。

 地下鉄が開業した当時、トラムは一部廃線の話もあったそうですが、路上からすぐに乗れる気軽さと運賃の安さから利用者は減少せず、存続を求める多くの声にも支えられて今に至るのだとか。魅力ある乗り物なのはもちろんですが、経済効率至上主義ともいえる香港の街で、一見前近代的にも見えるこの電車がずっと支持されてきたということは、情緒だけではない、交通機関としての利便性がちゃんと受け入れられてきたからなのでしょう。
 こんなので毎日通勤するんだったら楽しそうだなあ、と思うのは、ヨソ者だからでしょうか。でも楽しそうだよなあ。

  • 香港トラム おすすめの本

香港路面電車の旅―トラムには香港のすべてがみえる窓がある

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 2004年の香港トラム100周年の際に出版された本。内容は写真集+エッセイという感じ。東から西へ、全線を写真と文章で辿ります。雑踏に渦巻く庶民のエネルギー、といった「いかにも」な写真だけでなく、喧騒の中に息づく静けさや昔から変わらぬ人々の暮らしの一瞬を捉えているのは、さすが香港を撮り続けてきたカメラマンならでは。巻末の主要停留所周辺の解説は現地訪問の参考にもなります。
 「鉄」的には、車庫の風景や120号車についてのページが見どころ。いずれも数ページを割いて、美しい写真と情緒ある文章で紹介しています。
 ちょっと高いですが、香港トラムの好きな人には絶対おすすめ。

*1:香港鉄路。地下鉄etc.を運行