JR東海、日本車両を子会社化へ

 JR東海は15日、国内鉄道車両メーカー最大手の日本車両製造を子会社化すると発表。約262億円を投じ、株式公開買い付け(TOB)により持株比率を現在の1.8%から50.1%に引き上げる。子会社化の目的は、リニア中央新幹線の2025年開業に向けての体制強化とのことです。(参考=JR東海のプレスリリース
 日本の鉄道車両メーカーは、日本車両JR東海東急車輛東急電鉄近畿車輛近鉄アルナ車両=阪急阪神HDと、要するに川崎重工新潟トランシス以外ほとんどが鉄道会社の系列となるわけですね。私はシーメンスボンバルディアアルストムなどの海外の大規模車両メーカーは「大手住宅メーカー」、日本の車両メーカーは「技術の超優れた工務店」みたいなものかな…と思ってますが、ユーザーである鉄道会社が車両メーカーを系列化するというのは、大規模メーカー主導による車両のマスプロ製品化が進む海外の鉄道車両製造と比べると、なかなか面白い傾向だと思います。ユーザーと製造会社の結びつきが強ければ運用結果からのフィードバックも得やすいでしょうから、メリットは大きいのでしょう。


 今回の子会社化に関して、8月18日付の日経産業新聞12面(一番最後のページ)に「リニア実現へ『連結』 JR東海日本車両を子会社に」という記事があり、これはなかなか興味深い内容でした。ちなみにもう一つの見出しは「自前開発、『輸出』に布石」です。
 全文載せるのはさすがにまずいので興味ある人は図書館で読んでくださいねってところですが、JR東海の葛西会長はリニアモーターカー技術の海外輸出にも意欲を示しているんだそうです。記事によると、

リニア新幹線の技術は将来へ無限の可能性を持っている」。今年2月、東京都内で開かれた講演会でJR東海の葛西会長はこう持論を展開した。将来は欧米など海外にリニア新幹線をはじめとする高速鉄道の技術を販売していくことに意欲を示した。

 ということです。
 積極的に高速鉄道技術を売り込んでいこうという考えがあるんですね。前述の大メーカー3社が世界的に幅を利かせる中、高速鉄道のパイオニア、日本の鉄道技術の世界進出に向けて期待の持てる話です。ただ、実際に「欧米」と言ったのかどうかはこの内容からは分かりませんが、特にヨーロッパにリニア技術を売ろうってのはちょっと無理があるんじゃないか、とは思います。
 ヨーロッパではドイツがリニアモーターカー、トランスラピッドを開発していて、既に上海で営業運転していますが、ドイツ国ミュンヘンでの路線計画は今年3月に中止になりました。費用の問題もありますが、従来の鉄車輪式鉄道でも400km/h程度までは実用化の範囲内にあると考えられている(中国で350km/h運転始めちゃったし)現在では「リニア不要論」も高まっているようで、574.8km/hを記録した2007年のTGVの高速試験の成功により、ヨーロッパの鉄道専門家には「リニアは死んだ(maglev is dead)」という人までいます。限られた拠点間を超高速で結ぶより、多少遅くても従来の路線網を利用して街の中心へ乗り入れ、低コストでネットワークを広げたほうが実際の移動時間的に見てもメリットが大きい、という発想でしょう。最も重要視されるのは「いかに技術的に最先端か」「いかに速いか」よりも、コストを含めた実際の運用上での「速さ」や汎用性、互換性のようで、超音速機のコンコルドの次世代機を作らなかったことにも共通点が感じられます。

 とはいえ、飛行機以外の高速公共交通が今のところ未発達でこれから必要とされるような地域では、リニアモーターカーというのはかなり可能性がある乗り物でしょう。例えば中東とか南米とか、あるいはアメリカも含め、鉄道がなかった(あるいは衰退した)地域に新たに高速鉄道を造るというのであれば、リニアが選択肢に入ってくることは十分考えられます。そうなれば、日本の技術が採用される可能性は高いでしょう。なにしろ今のところ実用的なリニアモーターカーを建設できるのは日本かドイツかの2択です。
 で、そういう時に重要になってくるのは国のバックアップです。たとえばTGVはフランス政府、アルストムSNCFが組んでモロッコに売り込んだり、緊密に連携してやっているようですが、日本政府は日本の鉄道技術をどの程度世界に誇れる「商品」として捉えているんでしょうか?最近ではブラジルの高速鉄道計画に日本政府や企業が売り込みをかけ、三井物産が応札すると報じられていましたが、この計画に対して政府がどの程度力を入れて売り込んでいくか、注目されるところです。

 日経産業新聞の記事では、日本車両の子会社化は、国に頼らず自腹でのリニア新幹線実現を決めたJR東海が、建設に際して国交省へ提出が必要な輸送需要や建設費など4項目の調査指示を早急に出すよう国に促す狙いもあるようだ…として、「日本車両の買収に込めたメッセージを国はどう受け止めるのだろうか」と結んでいます。
 さて、それとは別に、高速鉄道技術の世界市場への売り込みに意欲を示すJR東海のメッセージを、国はどう受け止めるのでしょうか?