Trenitalia ETR500

 イタリアが誇る最高速度300km/hの高速列車、ETR500。数年前からイタリアのACMEというメーカーがHOスケールで模型化の予告を出していましたが、ついに今夏発売となりました。
 なぜかイタリア鉄道がやたらと好きで、2年前には実車のETR500にも念願の初乗車を果たした私としては当然手に入れたいこのモデル、でもちょっとお値段がね…ということで微妙に躊躇してたのですが、用事のついでに寄った東京の某模型店で実物を見たら、予想を上回る素晴らしい出来栄えに「あ、これは買いだ」と天の声が。
 
 …結局、鉄道模型では3年前に3線式Oゲージのセットを買ったとき以来の大きな買い物を即決で実行してしまいました。まあちょうど30歳の誕生日を迎えたばっかりだし、たまにはいいよな、と思いつつ。

 そんなわけで、イタリア鉄道ファンには待望のETR500、どんなモデルなのかをちょっとご紹介。


 ETR500の営業運転開始は1996年ですが、このモデルのプロトタイプは1999年以降に登場した「Politensione(=複電圧の意、交流25kVと直流3kV対応)」と呼ばれる機関車、E404.500番代を連結した編成。イタリア鉄道の電化方式は従来全て直流3kVでしたが、高速新線は交流25kV電化で統一されることになったため、直流3kvのみ対応の機関車を連結していた初期の編成も、現在はこの機関車と同タイプのE404.600番台に置換えられています。
 パンタグラフシングルアームタイプ。実車の登場時はひし形でしたが、2005年ごろから交流/直流それぞれに対応したシングルアーム2基に交換されているので、ここ2〜3年の仕様が再現されています。ちなみに車端寄りが交流25kV対応、先頭寄りが直流3kV対応です。ローマ―ナポリ間に最高速度300km/hの高速新線が開業した05年以降は、同区間を走る編成を中心に、シルバーメタリック塗装の「EUROSTAR AV(高速)」仕様にリニューアルされた車両も登場しています。

  • 全体の印象



 モデルは両端の機関車2両、中間の1等車1両、2等車1両の4両セットです。まず一見して思ったのは塗装仕上げの美しさ。ヨーロッパの鉄道模型は往々にしてつや消し塗装の場合が多く、なかでもACMEは今までの製品ではかなり強いつや消し仕上げ、というイメージでしたが、このモデルは珍しく艶のある塗装。特にグリーンの発色がとてもきれいです。ボディはプラスティック成型ですが、窓ガラスが全てきっちりはめ込まれているためプラ製品のウィークポイントともいえるボディの厚みが感じられず、ワイパーや機関車の屋上ルーバーが金属製のシャープな別パーツになっていることもあって、一見金属製のハンドメイドのモデルかと思ってしまうクオリティの高さです。

 機関車側面の「ETR500」や「EUROSTAR ITALIA」のロゴ、デザイナー・ピニンファリーナのサインまで、レタリングのかすれもなく、完璧に文字が読み取れます。

 中間の客車は連続窓の表現がポイントですが、窓ガラス部分は窓柱部分を内側から黒く塗装したクリアパーツをはめ込んであり、車体と窓のラインが一体化した流麗なボディをリアルに再現しています。インテリアも1等車は赤いシート、2等車は緑のシートがちゃんと備わり、向かい合わせの座席中央にあるテーブル(縦に収納されていて、引き出して使う)や、1等の一部にあるセミコンパートメント風に仕切られた座席のパーティションまで再現されていて、乗ったことのある人なら感動もの。
 客車内には白色LEDによる室内照明が標準で組み込まれているのも、ヨーロッパ製品では割と珍しい部類に入るでしょう。

  • 機能面

 イタリア人というのは往々にして大ざっぱというイメージがあって、私はそこに妙な親近感を覚えるのですが、フェラーリでもヴェネチアン・グラスでも凝り始めるとやたらめったら工芸品的なものを作るようです。ACMEというメーカーも、割とそういった傾向が感じられます。
 このモデルでそれが一番感じられるのは、編成全体を繋ぐ電気連結器付きのカプラー。正直なところ、連結はかなり面倒です。はっきりいって今まで自分が見たあらゆる鉄道模型車両の中で1、2を争うめんどくささと言えます。

 手前の車両に付いている、5本のピンが出ているのがオス側の電気連結器で、これを奥の車両に付いているメス側の電気連結器に差し込み、両サイドのフックを引っ掛けます。「そんなの線路上でぶつければいいんだろ?」と思ってしまいますが、それをやったらほぼ確実にピンが曲がります。それくらいデリケートです。取説には「あまり頻繁に連結開放を繰り返さないように」とはっきり書いてあります。それってちょっとどうなのか、と思わなくもないですが。
 手順としては、車両を直線の線路上に並べてから、まず双方のフックを下から持ち上げておいて(専用の工具が付属)、電気連結器を差し込み、それからフックを掛ける、という順番でやるのが一番上手く行きます。車両によってはフックの動きが硬くて簡単に動かないので、その場合は車両を横倒しにしてやったほうがいいかも。実車の編成は両端の機関車を含め14両ですが、正直4両編成でも十分面倒なのに14両連結するってのはちょっと罰ゲームに近いです。
 ただし、これさえクリアしてしまえば編成全体を繋ぐ電気連結器の効果は大きく、ほぼ無音に近いめちゃくちゃスムーズな走行性能とチラつかず美しく輝く室内照明&ライトが待っています。イタリアワインでも飲みながら優雅に楽しみたいぜ、という人は、酒はとりあえず連結してからにしましょう。
 

  • 走行 急カーブを通過させる方法

 取説には、このモデルの最小通過曲線半径は450mmと書いてあります。ヨーロッパ型HOの標準といえる半径356.5mmのカーブだと、直線からカーブに入るときに機関車と客車の車体が接触して脱線してしまい、まともに走りません。

 ただし、台車の首振り自体は半径356.5mmでも全く問題ないし、車体がぶつかるのは直線からカーブに入るときだけです。

 というわけで、直線からカーブに入る部分だけを、半径420mmのレールに換えてみます。すると、カーブに進入するときに客車側の車端部が機関車の内側に入る形となって、スムーズにカーブに進入することができました。カーブ区間の入り口と出口だけを取り替えれば、あとは半径356.5mmのままでも特に問題なく走ります。要するに実物でいう「緩和曲線」を作ればいいわけです。これは単純な楕円形エンドレスの場合で、Sカーブなんかの場合は別の工夫が必要になるでしょう。
 そりゃあ高速列車ですから本来は大きなカーブで走らせるのがいいでしょうが、限られたスペースで走らせたいという場合には使える方法です。カーブでの車体の接触さえ回避できれば、急カーブでもものすごくスムーズに快走します。
 

  • 総評

 高速列車のモデルというと、その知名度や華やかさから初心者向けとして扱われることが多いように思います。でも、このモデルは初心者向きではありません。「フルスピードでガンガン走らせられる高速列車が欲しい」という人にも向かないでしょう。連結器をはじめ、デリケートな扱いというか経験的なコツを要求される部分があるからです。
 ただし「ETR500が好き」という人にとっては本当に素晴らしいモデル、はっきりいって感動の嵐です。イタリアの車両といえば少し前まではヨーロッパ型鉄道模型の中でもけっこう冷遇されていた(と思う)ジャンルですが、こんな素晴らしいモデルが登場するようになったなんて。恐らくEUROSTAR AV仕様も出るでしょうから、そっちにも期待。いずれにせよ、イタリア鉄道ファンなら必携です。Bellissimo!