アメリカ高速鉄道網構想 オバマ大統領が発表

 アメリカのオバマ大統領は16日、米国内の高速鉄道網整備に今後5年間で計130億ドル(約1兆3000億円)を投資する考えを発表。(参考=米運輸省の発表米運輸省鉄道局の資料Railway Gazette International


 さすがオバマだ!
 すでにある程度話題になっていますが、アメリカ中に高速鉄道網を張り巡らそうというかなり野心的なプロジェクト。新たな高速交通の整備によって石油消費の削減、地球温暖化防止のほか、渋滞・空港の混雑抑制をも狙ったもので、今年2月に可決された総額7870億ドル(約73兆円)の景気対策法案に含まれる初期費用80億ドルのほか、今後5年間に毎年10億ドルを投資するということです。

 計画されているのは以下の10地区。「10 corridors(回廊)」という言い方をしていますが、「10路線」ではありません。

 まあ書いてる本人もどこだかいまいち分かってない地名をダラダラ連ねるより地図見てもらったほうが早いですね(米運輸省発表の高速鉄道計画図(pdf))。
 路線延長はそれぞれ100〜600マイル(160〜960km)程度。米運輸省は100マイル以下は近郊鉄道と車、600マイル以上は飛行機が適しており、高速鉄道の威力がもっとも発揮できるのはこの範囲と考えているようです。これはヨーロッパの専門家も似たようなことを言ってますね*1。確かに、所要時間で考えれば飛行機に対して競争力があるのはこの程度の距離でしょう(そう考えると、日本の都市間距離というのはやっぱり鉄道向き)。
 
 高速鉄道というと、最高速度はどのくらいになるのか?というのがどうしても気になるところです。資料にある米運輸省高速鉄道の定義では、最高速度240km/h程度で300-960kmの距離を結ぶのが「HSR(High-Speed Rail)Express」、最高速度180-240km/h程度で160-800kmの距離を結ぶのが「HSR Regional」となっていて、どちらも最高速度は意外と控えめな感じです。既存のAmtrakの「Acela Express」と同じですね。ちなみに、どのルートが「HSR Express」なのか「Regional」なのかについては特に出ていません。ただ、カリフォルニア州については今回の計画より前から最高速度300km/hオーバーの高速鉄道計画があるので、そのプランが推進されることが予想されます。
 路線整備にあたっては、既存の路線改良と新線建設の2タイプが考えられているようです。資料にはどこにも書いてないようなので、どの路線をどのように整備するかは今後の調査次第ということでしょう。

 この計画は環境・エネルギー対策はもちろんですが、かなりの経済効果を生むことも確実。プロジェクト自体での雇用や建設、車両・電機関連は当然ですが、鉄道の特性といえる都心部への直接乗り入れによって中心市街地の再開発も行われるでしょうし、それが治安の改善にもつながるかもしれません。
 日本の鉄道関連メーカーにとっても大きな商機でしょう。NY地下鉄の車両は「Kawasaki」がトップシェアなのは有名ですが、ヨーロッパ、アジア向けでは正直なところ劣勢ながらも、アメリカ向け車両輸出では各地のLRT、近郊鉄道車両なんかを中心に海外巨大メーカー各社と張り合って善戦しているようですから、もしかしたら10年後にはアメリカに「Shinkansen」が走っているかも?


 なんでもアメリカの石油消費の70%、温室効果ガス排出の28%は交通分野だそうです。オバマ大統領は前政権と違って温暖化防止に積極的な姿勢を見せていますが、この高速鉄道網計画もその中の「切り札」の1つでしょう。余計なしがらみがないというのは本当にアドバンテージです。まさに「Change」、変われば変わるもんなんですね。

 しかし、考えようによっては「世界の超大国アメリカにいままで「Acela」以外の高速鉄道がなかった、というのがおかしいという気もしなくはありません。中国だって物凄い勢いで高速新線整備を進めているこのご時勢、高速鉄道網くらい持ってないと「超大国」は名乗れないぞ!かなり大規模なプロジェクトではありますが、「鉄」としてはもちろん、環境問題の観点からも着実に実行されるのを願いたいところです。Yes,you can!

*1:「HIGHSPEED IN EUROPE」という本の前書きに「high-speed railways are now an extremely attractive alternative to air transport over distances of up to 1200km」とあった