ポルトガル・リスボンの市電博物館

 過去の記事一覧を表示していて思い出したんですが、去年の今頃はポルトガルに行っていたのでした。もう1年かあ、早いなあ。
 ということで、今回はポルトガルリスボンの市電博物館をご紹介。

 リスボンといえば以前にも書いたとおり、市電とケーブルカーが観光の名物にもなっている街です。もちろん私はこれに乗りたくて3泊5日でリスボンまで行ったわけですが、ここには路面電車ヲタクなら垂涎の素晴らしい博物館があります。
 その名は「Museu da Carris」。直訳すれば「Carris博物館」。「Carris(カリス)」はリスボンの市電、ケーブルカー、バスを運行している会社です。ここはどのガイドブックにも紹介されていないようですが、はっきりいって「鉄」、しかも路面電車好きならベレンの塔ジェロニモ修道院なんかの有名観光スポットを放っといてでも行くべきです。マストです。激ヤバです。実車をはじめとした展示物の充実ぶりももちろんですが、なんとここは博物館内を「専用の保存電車に乗って」移動できるのだ。


 博物館は市電の車庫の敷地内にあります。市電15番のAlges方面行きに乗り、車庫のあるSanto Amaroで下車。リスボンを流れる大河、テージョ川に架かる大きなつり橋「4月25日橋」の真下にあたる場所です。博物館の入り口はややわかりにくいですが、カイス・ド・ソドレ方面行き停留所のすぐ脇にあります。

 展示は大きく2つに分かれていて、まず最初は資料館。ここではCarrisが1872年に馬車鉄道会社として創立し、84〜92年にケーブルカーを敷設、1901年に馬車鉄道を電化して市電が走り始め…といった、創業時から現在までの歴史を知ることができます。現存するケーブルカー3線の最大斜度、路線延長などもここでわかります(ここに書いたデータは博物館の展示から書き写したもの)。 
 この資料館はけっこう小さく、ゆっくり見ても15分程度で全部回れる大きさです。私は何の予備知識もなく行ったので、ふんふんなるほど、で、これで終わり?と思ってしまったのですが、それは甘かった。ここからがこの博物館の見せ場なのだ。


 展示を見終わってさて出るか、とうろうろしていると、どこからともなく係員のおばちゃんがやってきて「こっちに来い」と合図します。「へ?」と思って聞いてみるも英語は通じず。とりあえずおばちゃんに従って、入ったのとは反対側のドアから外に出てみると…



 なんとこの電車が迎えに来てくれました!これで車庫の敷地内を走って、実車の展示館まで連れて行ってくれるのです。



 この電車は電化完成時の1901年にアメリカ・ブリルで製造された800形・801号。現在リスボン市内を走っている電車も似たようなクラシカルな外見ですが、現役車両は走行機器や車内がリニューアルされているのに対し、こちらは正真正銘の製造時のまま。前面補助網付き、ポール集電に手ブレーキ、重厚な走行音の釣り掛け式Brill21形台車…と、路面電車ヲタクなら感涙モノです。


 車内は重厚な転換クロスシートにシャンデリア。20世紀初頭にタイムスリップしたかのようです。

 博物館内の移動とはいえ、車庫の敷地はけっこう広く、しかも現在も実際に車庫として使われている部分を迂回していくため、3分程度の乗車を楽しめます。しかも私が行ったときは他に来場者がいなかったので、自分ひとりの貸切運転!最高です。

 実車展示館に着くと、運転士のおじさんが建物のカギを開けて(普段は閉めてある)中に入れてくれます。



 展示館はかつての車庫を利用していて、馬車鉄道・市電の実車16両、バス6台を展示。どれも驚くほどピカピカに整備されているのはもちろん、電車はヘッドライトや室内灯も点灯していて、まるで「生きた」状態の車庫を見学しているかのようです。



 これは馬車鉄道時代の客車。さすがに馬は作り物。



 1901年製造の400形。オープンデッキタイプ。



 こちらはベスティビュール付きのボギー車。分かりにくいですが、マキシマムトラクション(車輪径が前後で違う台車)に注目!



 どこかで見覚えが…。これは土佐電鉄で走っている910形(Carrisより譲渡)と同じタイプです。



 切符の数々。この建物にはかつての切符印刷所も併設されており、創業時からの切符のほか、印刷に使われた活字や印刷機も展示されています。

 帰りは来たときと同じように、801号車で出口まで送ってくれます。Obrigado!



 出口(入場時のチケットオフィス)では各種の記念品を売っています。HOスケールのトラムのディスプレイモデルもあり。そういえば、国内の模型店でこれを動力化したやつを売っていましたね(欲しかったなあ)。1台だけ買いましたが、もっと買ってくればよかった…。

 
 というわけで、「Museu da Carris」、路面電車ヲタはもちろんですが、「電車に乗って移動」というアトラクションもあるので、一般の人でもなかなか楽しめる博物館ではないでしょうか。場所も観光名所の多いベレン地区に近く、アクセスも便利。リスボンに行く予定のある方はぜひ。


・Museu da Carris Information
<住所>Rua 1 de Maio, 101 - 103
<最寄り停留所>市電15番 Santo Amaro
<開館日>月〜土  日・祝は休館
<開館時間>10:00〜13:00、14:00〜17:00
<入場料>大人2.5ユーロ、12歳以下/65歳以上1.25ユーロ
 Carrisのオフィシャルサイト(英語版)はこちら。メニューの「The Company」をクリックすると、「Carris Museum」がメニューに表示されます。


(参考)
リスボン市電乗車記
リスボンケーブルカー乗車記
リスボン地下鉄乗車記