ポルトガル鉄紀行#3 リスボンの地下鉄

 もはや2カ月前になってしまったポルトガルの話のつづき。今回はリスボンの地下鉄です。

 リスボンの電車といえば市電やケーブルカーのイメージが強いが、もちろん地下鉄もある。というか、市電やケーブルカーが走っているのは市内でも中心部(というか旧市街)のみなので、それ以外の場所へ行くにはだいたい地下鉄を使うことになる。今回一番利用したのも、実は市電ではなく地下鉄だった。市電やケーブルカーの陰に隠れてちょっと地味だが、路線網もわかりやすく、施設や車両もクリーンで、旅行者にも使いやすい交通機関だ。

  • 路線

 リスボンの地下鉄はMetropolitano de Lisboaという会社が運営(参考=オフィシャルサイト)。サイトの歴史の項目を見ると、1975年に国有化され、77年に国保有の企業になったというようなことが書いてあるので、恐らく日本の旧国鉄のような公共企業体だろう。4路線、約40kmの路線網があり、各線とも軌間は1435mm、第三軌条集電(上面接触)。路線は青(Linha Azur)、黄(Linha Amarela)、緑(Linha Verde)、赤(Linha Vermelha)とそれぞれ色分けされている。俺の座右の書「世界の地下鉄」に載っている路線名では、青がかもめ(Gaivota)線、黄がひまわり(Girassol)線、緑が帆船(Calavela)線、赤が東方(Oriente)線となっていて、なかなかセンスいいなと思っていたのだが、今回行ってみたらかもめとか帆船とかのマークこそあったものの、路線名そのものは前記のような単純な色名になっていた。やっぱり分かりにくいとして改称されたんだろうか?
 ちなみに訪問時(2008年1月)の時点で販売されていたガイドブックには載っていないが、Azur線はCP(ポルトガル鉄道)のサンタ・アポローニャ駅まで延長されている(07年12月19日、Baixa-Chiado〜Santa Apolonia間延伸開業)。

  • 車両


 車両は、ヨーロッパには珍しくステンレス車の多いポルトガルだけあって、ステンレス製の両開き3扉車。細かい差異はあるが、基本的に全線で同じタイプの車両を使っている。1両の全長は短めで、だいたい16mくらいか?車体幅は割と広く2800mmくらいあるだろう。ドアはプラグドアで、特に半自動のボタン式とかではなく開閉ともに自動。カラーリングはラインカラーに関係なく前面が赤、ドアが水色。窓は側面、前面ともに大きく、E231を愛嬌のある表情にしたような感じで何となく親しみの湧く車両だ。走行音で判断する限り、インバータ制御車とそうでない車両があるが、両者が併結しての運用もあった。加減速はかなりいい。
 路線によって編成両数は異なり、見たところAzur線とVermelha線は3連、Verde線は2連+2連の4連、Amarela線は3連+3連の6連。2連は車両間の通り抜けはできない。3連は通り抜けできない編成と、全幅のホロがある貫通編成がある(AzurとAmarela線で確認)。恐らく貫通編成のほうが後期の増備車だろう。形式はよくわからないが、貫通編成は500番台のようだ。

 車内はこんな感じ。この車両は阪急のような木目の内装だが、東急5000系みたいな水色の内装の車両もある。内装が水色の車両はインバータ制御車で、全体ではインバータ車のほうが多いようだ。全体の雰囲気は、RATP(パリ)のMF77形に似た感じ。座席は一人ずつ区分されたボックスシートで、クッションは(特に背ずり)なかなかいい。座席配置はドア間に2ボックス、連結面側の車端部に1ボックスだが、3連貫通編成の場合は貫通ホロ脇の車端部が3人がけロングシートになっている。
 車内の旅客案内設備としては、各ドアの上に路線図を掲示。これは地下鉄全路線のマップで、各路線単独の路線図というのはないようだ。車端部にはLED表示装置があって、乗り換え案内と次駅案内を表示。案内放送は自動音声で、チャイムの後に「Proxima Estacao(次の駅は)、〜」と女性の声で流れる。戸袋と車端部の壁には広告スペースがあって、さらにかなり控えめ(1両に2〜3カ所?)とはいえ「中吊り広告」もあった。ヨーロッパではちょっと意外だ。

 動画です。駅到着〜車内案内放送、次駅到着まで。(Linha Verde:Rossio-Martin Moniz)

 駅はどこもかなりきれい。ただし日本的感覚からするとちょっと薄暗い感じはする。自動改札のセンサーの感度は、正直言っていまいち。筐体はでかいのにSuicaやオクトパスより落ちる。高機能、省スペースな日本の自動改札機って、もっと評価されてもいいと思う。
 外国の地下鉄の常として、構内に時刻表はなし(まあ山手線もなくなったけど)。ホームは見た範囲内では全駅が相対式だった。ホームにはLEDの発車案内があって、行先と時刻、「地下鉄は全線禁煙です」みたいなメッセージを表示。線路と線路の間にはプロジェクターとスクリーンがあって、常時テレビを流している。なので、ホームはそれほど静かというわけでもない(うるさくはないけど)。

 駅で面白いのはVermelha線の終点、オリエンテ駅。長野が世界に誇るアーティスト、草間彌生の壁画がホームにある。降車・乗車ホーム両方の終端側にあって、見た瞬間「あ、草間彌生だ」と思ったら本当にそうだった。松本駅もリニューアルするときになんか描いてもらって、オリエンテ駅と姉妹提携とかすればよかったのに。実はリスボンのメトロは駅のアートをけっこう売りにしているようで、サイトにも「Art in the Metro」という項目がある。

  • その他

 特筆すべきは車内、駅ともにかなりクリーンなこと。日本や台湾なみにきれいで、ゴミも落ちていない。リスボンではケーブルカーやCPの近郊電車には見られる落書きもない。夜遅い時間(22時半ごろ)でも若い女の子が1人で乗ったりしていたので、治安もいいだろう(もっともリスボンEU加盟国の首都で一番犯罪発生率が低いそうですが)。客層もCPの近郊路線より良さそうだった。その代わりといっていいかどうかわからないが、車内でもホームでも駅の通路でも、監視カメラは至る所で目に付いた。これは地下鉄に限らず市内やCPの近郊電車でもそうだった。俺は安全のためには監視カメラ設置はある程度仕方のないことだと思う人間だが、のんびりしているように見えるポルトガルも、実はけっこう「監視社会」なんだなと思わされる一面だった。