ついに台湾高速鉄道に乗る

 開業直後にも乗車を試みてあえなく玉砕した台湾高速鉄道。今回、ついに乗ることができました。区間台北―台中、台中―左営と台中―台北。要は1往復半だ。
 細かな解説や乗車記は既にいろんな本やサイトで見ることができるので、大ざっぱな感想を。

  • 車両


 台湾高鉄700T。東海道・山陽新幹線の700系とだいたい同じだが、各部に差異がある。外見上の大きな違いは塗装のほか、運転席の乗務員室ドアがなく、先頭部が若干短いこと。鼻先のラインも700系より角度が急でスマートな印象を受ける。個人的には、塗装デザインも含めて本家の700系より遥かにかっこいいと思う。

 車内も700系に準じているが、シートの色が違うので印象はだいぶ異なる。エメラルドグリーンをベースにしたシートファブリックは明るい感じでなかなかいい。荷棚の下にある空調吹き出し口の処理も違い、700系では窓柱の部分に半円形に張り出した形になっているが、700Tは荷棚下に一直線になっていて、JR東日本のE257系に似た処理。荷棚のエッジの部分はシートとあわせたエメラルドグリーンになっていて、インテリアの良いアクセントになっている。思うに、N700の内装がすごく安っぽく感じるのは、こういう色彩的なアクセントがないからじゃないだろうか?

 座席背面のテーブル裏には車内の案内。日本と違うのは「携帯電話を使う際は『小さな声で』」となっているところ。地下鉄車内で飲み食いは罰金でも携帯はお咎めなし、という文化だから、まあ頷ける。

 その他の差異としては、デッキのドアがセンサーによる自動開閉ではなく押しボタン式。写真で見える「開」と書かれた部分が押しボタンで、大きいので荷物を持っていても押しやすく、特に不便は感じなかった。
 あと、自由席車には「博愛座(優先席)」があった(見えにくいですが、画像でヘッドレストのカバーが青いところ)。緊急脱出用の窓ガラス破壊用ハンマーも、欧米では割とあるが日本にはない装備だ。

 もちろん車内販売もあって、販売員はきちんと英語が通じる。昼食、夕食時間帯の列車でしか売っていないという「高鉄弁当」は残念ながら売り切れで食えなかった。高鉄に限らず台湾では駅弁が大人気なのか、台鉄の台北駅でも売り場に行列ができていて驚いた。

  • 乗り心地

 とてもいい。正直言って日本の新幹線より上だと思う。少なくとも長野新幹線より絶対にいい。300km/h近くで走行中でも、山陽新幹線のように立って歩いたらよろけてしまうということはない。できたばかりだから、というのもあるだろうが、スラブ軌道の構造は日本式とはいえ、線路規格が許容軸重25.5tのUIC規格ということで、多少なりともがっちりしているのではないだろうか?トンネル断面は日本より明らかに大きかった。

 台北駅は台鉄の駅の間借り、という感じだが、台中駅(画像)はものすごく立派な駅。空港のターミナルビルを思わせる。改札外にはセブンイレブンロイヤルホストモスバーガー山崎パンのカフェなんかがあり、飲食に関しては「駅ナカ」も充実していた。

 画像の真ん中にあるATMコーナーのようなものが切符の自販機。これと同じような形で何カ所かに設置してあった。タッチパネル式で、表示は中国語版の漢字表記で十分理解できる。クレジットカードで買えるので便利だが、PINコードを入力しても反応が遅く、日本の自販機に慣れているとちょっとイライラする。

 自動改札は切符の挿入、取り出し口の両方がゲートの前にあり、飛行機の搭乗ゲート前にある改札機(ボーディングパスを通す奴)のよう。切符を抜かないとゲートが開かない。切符は裏面(磁気テープのある側)を表にして通すので、ちょっと戸惑うかも。ゲートはドア形ではなく扇形をしていて、開くときは改札機本体に収納される。

  • 全体的感想

 「新幹線システムの輸出」といわれた台湾高鉄だが、車両こそ700系の親戚とはいえ、乗ってみるとやっぱり違う乗り物。車内、駅ともにかなりの人数がいるスタッフの応対も含め、サービス面ではいわゆる「鉄道」というよりも、航空やホテル寄りに洗練された感じを受けた。運賃も(特別な割引切符を販売するとかではなく)期間や平日限定で割引をしたりと弾力的に運営されているようで、その辺も他の交通機関と比べて運賃制度が硬直化している感のある日本の鉄道と比べると、柔軟な姿勢を感じました。
 台中→高雄、台中→台北は夕方に乗ったが、4両ある自由席車は立客が出る混雑。利用はかなり定着しているのだろう。なにしろ競合する台北―高雄の航空路線はもはや全然ダメみたいだし(遠東航空は倒産・・・まあ高鉄が直接の引き金ではないみたいですが)、バス各社も行先表示に値段をでかく掲げてすさまじい値引きをしているようだったし、台鉄もダイヤ編成を長距離輸送主体から近距離へシフトさせているし、台湾西部の南北移動ではまさに一人勝ち状態のようだ。台湾の交通に与えたインパクトはかなりのものでしょう。旅行者にも、行動半径が圧倒的に広がってかなり便利だ。
 まあ「乗る楽しみ」としては、台鉄の在来線のほうが上だとは思うが・・・。