日暮里・舎人ライナーに乗る

 先週の土曜日、ちょっと用があって久しぶりに東京に行ったので、ついでに3月末に開業したばっかりの「日暮里・舎人ライナー」に乗ってみました。
 「日暮里・舎人ライナー」は、2008年3月30日に開通した都営の新交通システム。日暮里駅と埼玉県境に近い足立区北部の見沼代親水公園駅間を結ぶ全長9.7kmの路線で、ほぼ全線が尾久橋通りの上を通っている。列車は片側2扉のステンレス製ゴムタイヤ車両(側方案内式)5両編成で、無人の完全自動運転を行う。まあ「ゆりかもめ」とほぼ同じ構造です。

  • 乗車記

 京浜東北線で日暮里駅に着いたのは20時25分ごろ。「日暮里・舎人ライナー」は一番西日暮里駅寄りの出口から乗り換える。たぶんホームに「日暮里・舎人ライナー→」的な表示がたくさん出てるだろうなと思っていたら、これが何もない。一瞬どこだ?あれ西日暮里始発なんだっけ?と思ってしまった。なかなか地味な新線だ。改札を出るとエスカレーターがあり、JRの駅から1階上がった高架上に乗り場がある。
 通路の両脇にずらずら並んだスタッフに迎えられながらホームへ。島式の1面2線で、ホームの端から遠いとはいえ一応車両が見える。この路線は全駅スクリーンドア完備なので、ガラス越しでない車両を見られる駅はここだけ。しかも駅では列車とホームの長さがぴったりで後ろに引けないので、駅で写真を撮るのはかなり難しい。もっとも車両そのものは、他の新交通システムと比べても「輸送機械」然とした感じではあるが。

<画像が荒すぎてなんだかわかりませんね。失礼>

 ホームには20時33分発の列車が停まっていた。5両編成の各車両とも立客が数人出るくらいの乗車率でそこそこ混んでいる。乗客は席に座るなりさっそく寝たり、手すりに掴まって携帯をいじったりしているような人たち、つまりは普通の沿線住民で、先頭車にいた親子連れ数人以外は「開業したから乗ってみるか」的な人は見当たらなかった(俺がいるけど)。「記念乗車」の客なしで、しかも休日(土曜日)の夜でこの乗車率なら、利用者はすでにけっこう定着しているのだろう。
 

 車内はきれいだが、車体の外観と同様に全く飾りっ気がなく「新交通システム」という近未来の乗り物的雰囲気は全然ない。「コストカット」という言葉が頭に浮かぶ。座席は通路を挟んで1人掛けと2人掛けの一方向固定クロスシートで、それぞれ違う向きになっている。この座席配置、本当はロングシート主体の計画だったのを、製造中にクロスシート主体に変更したそうだ。この1人掛けクロスシートは窓際に不自然な隙間が空いているが、その痕跡だろうか?

 日暮里駅を発車するとすぐに急な左カーブ。この辺りはビルの間を走っていくのでいかにも「新交通システム」っぽい。しばらく走るとやや急な右カーブを経て西日暮里駅へ。西日暮里はさすがに客が多く、満員というほどではないが通路やドアの回りも立ち客で埋まるくらいになる。
 ここからは目だったカーブもなく、ひたすら終点に向けてまっすぐ北上。西日暮里―赤土小学校前―熊野前―足立小台と進む。
 駅は全て島式で、どこも同じつくり。一応シンボルカラーがあって色分けされているが、寝過ごしても一瞬気づかなそうだ。車両と同様にとにかく無駄は省く、というのが感じられる。ホームはちょうど5両編成が収まる長さで、前後に余裕はない。もちろん自動運転できっちり停まるのだが、ホームの中程までは結構スピードが出ているので、ついつい「停まれるのかコレ?」と思ってしまう。気づいたのはアップダウンが意外とあることで、ほとんどの区間では、駅を出ると下り坂になり、次の駅に近づくと上り坂になっているようだった。特に周辺の地形とは関係なさそうだったが、重力勾配(発車時に自然に加速をつけ、停車前に自然減速する)だろうか。軌道と道路の縦断面図でもあればわかるだろう。
 各駅では特に乗客の動きはなく、僅かに降車がある程度。でも先頭車は別で、ほぼ各駅で親子連れが乗ってくる。夜の前面展望を見たい、ってことだろう。もちろん俺も先頭車に乗っていたのだが、車窓風景ははっきりいって地味で、周りは住宅地なのでこれといって高いビルもない。暗闇の中にコンビニや吉牛の看板が浮かんでいるくらい。小田急の喜多見―和泉多摩川間がずっと続いているような感じがした。
 足立小台駅を出ると軌道は上り坂になり、荒川と首都高川口線を越える。たぶんここがこの路線一番、というか唯一のハイライト。首都高を越えると結構な下り坂で、先頭でまっすぐ前を見ていると視界から一瞬軌道が見えなくなって、ジェットコースター気分が楽しめる。特に夜は前が良く見えないのでけっこう面白い。といってもそれだけだが。
 荒川を越え、終点から4つ前の西新井大師西駅で乗客の1/3位が下車。続いて谷在家駅でもそこそこの人数が下車し、この時点で立客がほとんどいなくなる。日暮里起点で6kmを過ぎたあたりだ。6kmはバスだと結構時間がかかる。「ライナー」は約15分で遅れることもない。普通の鉄道を通すほどの利用者と距離はないが、バスだとちょっと辛い、歩くのは無理、という、新交通システムにちょうど向いた地域人口と距離なんだろう。この辺りからは駅間距離がやや長くなる。次の舎人公園駅でもさらに降車。ここは車庫がある駅で、出入庫列車があるからだろうが、中線のある2面3線になっている。時刻表を見ると、朝ラッシュ時の日暮里発と深夜の見沼代親水公園発に舎人公園駅止まりの列車がある。


 日暮里からちょうど20分で、終点・見沼代親水公園駅に到着。終点で降りたのは各車両8〜10人程度だった。少ないようにも思うが、バスなら1台満員になる数だと思うとそれなりの利用者数といえる。

 見沼代親水公園駅は、東京23区内でもっとも北にある駅。というとちょっと有難みが出てくるが、はっきりいって周りには何もない。駅前にセブンと、少し離れたところに吉牛、看板が霞むくらいの距離にマックが見える程度。あとは住宅地で、俺のアパートの近所(長野市ね)と大して変わらない郊外の風景だ。開業と同時に造られたというバスロータリーがやたらと明るく感じる。ここから北に数百m行けば埼玉県だ。
 駅は無人改札内には「振替乗車票発行機」というのがあった。確かに人がいなければ、こんなものも専用の機械で発行しないといけない。見慣れないブツだが、無人運転の路線ならではといえる設備かも。

 どうせなら帰りは先頭の席で、と思い、折り返しではなく1本待って次の列車に。客はほとんどいなかったのでこれは乗れるかも、と思ったら、やってきた列車の展望席は折り返し乗車の鉄ヲタ風が占領しておりました・・・。
 

  • 感想

 趣味的に言えば「地味」、この一言に尽きる。抜け道ルートにはならないので、沿線に住んだり、舎人在住の彼女でもできない限り(まあないだろうが)、今後乗ることはほとんどないだろう。ただ、新開発された都市やら大規模施設へのアクセスとして建設されたはいいが、結局利用者は少なく赤字・・・といった、どこかバブリーな乗り物のイメージがある「新交通システム」の中にあって、この路線はちゃんと地元の交通機関として利用されて、着実に稼いでいくだろうと思う(建設費の回収は別問題として)。俺はそういう、空気のように地域に溶け込んだ路線は結構好きだ。
 利用者数や収益という点では、通勤・通学利用者は並行路線バス(都バス里48系統)からほぼ確実に転移するだろうから、定期外客がどのくらいになるかってのがたぶんカギになるでしょう。バスは減便されたとはいえ終日25〜30分おきだそうなので、急がない人なら運賃の安いバスを使い続けるというのは考えられる。見沼代親水公園舎人公園間の各駅から日暮里駅までは、バス利用なら120円浮く計算になるので結構大きい。とはいえ、やっぱり速さは力かなあ。