九広鉄路 落馬洲線に乗る

 8月15日に開通した九広鉄路(KCR)の新線、落馬洲線に乗ってきました。
 九広鉄路は元からある九龍−中国本土(広州)方面の路線とその支線のほかに、2003年末に開通した西部のニュータウンに行く路線が独立して存在するので、それぞれ「九広東鉄」「西鉄」と呼ばれているんだそうです。「落馬洲線」は「東鉄」の支線で、本線の香港側終点の国境駅、羅湖の1つ手前の上水から分岐する約7km、1駅だけの線。列車はすべて本線からの直通で、線内のみの運転はない(たぶん)。落馬洲というのは川を隔てて中国・深セン*1と向かい合う場所で、要するにここも国境駅になっている。出入境地点を2カ所に増やして、羅湖の混雑を緩和するのが目的のようだ。
 開通翌日に乗ることができたのは本当に偶然だった。16日の朝に宿を出てうろうろしていたら街頭でもらった無料新聞の1面が「落馬洲支線通車」という記事だったのだ。中国語はわからないので、記事の内容もどこに行く線なのかもよくわからなかったが、新線が開通したということはわかる。そうと知れば「鉄」としては乗らないわけにはいきませんね。この日はもともと九広鉄路の沿線にある「香港鉄路博物館」に行こうと思っていたこともあり、そのまま九広鉄路の始発駅、尖東に向かった。
 KCRの尖東はMTR(地下鉄)の尖沙咀駅とつながってはいるが、エスカレーターの昇り降りはないものの京葉線の東京駅と同じくらい離れていて結構歩く。駅の路線図で初めて「落馬洲」がどこにあるのかを知る。発車案内板を見ると、羅湖行きと落馬洲行きはほぼ交互に運転されているようだ。新線は最後の一区間だけなので、とりあえずホームに入っていた羅湖行きに乗車。車両はシルバーの車体に窓周りが青、ドアが赤なので見た目はなんとなくSBB(スイス)の近郊電車みたいだ。外吊り式ドアの5扉車、座席もステンレス製とMTR(地下鉄)の車両に似ているが、MTRはドア間6人がけだったのに対してこっちは4人がけだったので、車体の全長は短いのか?ただKCRは車端部にも座席があるから同じかもしれない。
 平日の昼間だったが乗客は結構多かった。シートがほぼ埋まるくらいで発車。尖東を出てしばらくは地下線なのかと思ったら、すぐに地上に出た。しばらくは街中を走ってだんだん緑が深くなる。この日はかなり雨が降っていてパッとしない天気だったからというのもあるが、沿線の風景は日本の都市近郊路線と似た感じで、正直いってそれほど印象的な車窓ではなかった。駅もホームを見る限りは日本の電化路線のごく普通の駅に似た感じで、模型だったらTOMIXの近代型ホームとかで作れそうだ。ただ、やっぱり暑いので柱に取り付けられた巨大扇風機が回っているのが面白い。


 (ここから先は動画もどうぞ。)
 約40分で落馬洲線との分岐駅、上水に到着。ここで乗り換える。ホーム上には次発列車がどっち行きかを表示する液晶ディスプレイと「羅湖行きはこちら」「落馬洲行きはこちら」という「乗車位置目標」があってなんだか日本的。本数はとても多いので落馬洲行きはすぐにやってきた。来た車両は近畿車輛製の新型車だ。乗客は「新線に乗りに来た」という感じの家族連れがけっこう多くて、車内で写真を撮ったりしていてちょっと意外な感じがした。
 発車するといくつかの分岐を越え、恐らくここからが新線だろうと思われる区間に入る。しかしすぐにトンネル。車内は空いていたが液晶テレビが天井からぶら下がる形で(JR西日本321系のように)ついていて音声付きで番組を流しているので、動画に入っている人の声は主にこっちです。
 トンネルを抜けると高架区間に入る。周りはほとんど何もないところだが、少し離れたところには高層ビル群が見える。深センだ。広東語−北京語−英語の車内放送が入り、高架の落馬洲駅に到着。できたばかりの近代的な駅だが、外はまったくの田園地帯。田んぼの中に近代的な駅と高架線があるのはつくばエクスプレスみたいだ。
 で、ここからが問題。この駅は階段を下りるとコンビニやら何やら「駅ナカ」店舗がいろいろあるのだが、下りてしまうと階段には「逆戻りするな」とばかりに「×」印があって、エスカレーターもホーム側への上りはない。そうすると改札を出てしまおうと思うわけだが、改札を出ると中国側へ出境するしか出口はない。俺は今回深センに行くつもりはなかったのだが、この駅の存在すらこの日に初めて知ったので、そんなことはまったく知らずに改札を出てしまった。パスポートは旅行中は常に持ち歩いているからよかったが、もし行く人がいたら気をつけてください。
 ちなみに出境すると、動く歩道もある空港のような近代的連絡橋で対岸の中国側イミグレーションにつながっている。イミグレーションのビルの地下には深セン地下鉄の駅があるので、これで羅湖まで出てぐるっと回って香港側に帰ってくるのも面白いかもしれない。俺はそのために人民元に両替するのも面倒なのでそのまま引き返してしまいましたが。イミグレーションの近くにははっきりいって特に何があるわけでもなかった。


 帰りのKCRの車内テレビでは、落馬洲支線開通のニュースをやっていた。朝もらった新聞もそうだが、どうも「客がぜんぜん乗ってない」ということを言っているようだった。たまに流れる華々しい開通記念CMっぽい番組とは対照的。車内でこういうニュースを堂々と流せるKCRはなかなか大したもんだ*2。中国側の交通が不便なのが問題、と新聞には書いてあるみたいだったが、まあ1日やそこらじゃまだわからないんじゃないかと思う。羅湖行きと落馬洲行きを交互に運転するくらいだからKCRもかなり力を入れているんだろうが、今後はどんどん発展していくんだろうか。

*1:センは土へんに川

*2:車内テレビの番組は普通のテレビ番組なのか、それとも独自に編集した番組なのか?バス車内のテレビ番組はオリジナルっぽかった