「将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情」

 この本は凄い。
 今まで北朝鮮の鉄道については、せいぜい平壌の地下鉄や市電くらいしかまともな写真を見たことがなかった。写真や資料を本やネット上でいろいろ探してみても、大まかな路線延長なんかのデータくらいが精一杯というところだった。そうなると果たしてどんな列車が走っているのか、さらに興味が沸いてくるわけで、例の「将軍様」がロシアだか中国にわざわざ列車で出かけたときは「これは北朝鮮の列車がテレビで見れるかもしれないぞ!」と思ったのだが、「金正日の列車が走っています!」とかいってカメラが追っているのは先頭車、つまりロシアの電気機関車だったりして「おいコラこの糞カメラ野郎映すとこ間違ってるんじゃボケ」と憤慨したりしていたのだ。
 そんなわけでこの本は広告を見てすぐに買ってしまった。
 全部で140ページくらいの割と薄い本なのだが、内容は例の「将軍様専用列車」解説に始まり、北朝鮮鉄道の現状(というか惨状)、歴史、車両解説から路線データまで一通りのことがすべて載っている。特に路線データは全駅名と電化/非電化、単線/複線、狭軌標準軌の区分までわかる詳細なもので、こんなのは恐らく北朝鮮にもないんじゃないだろうか。DVDも付いていて車窓風景や蒸機の走行なんかを動画で見れるのだが、よく撮れたなあと感心する。
 車両も大部分が写真つきで解説されている。「将軍様専用列車」は編成図も載っている。一般車両では、まあM62(旧ソ連が開発したディーゼル機、表紙写真の最上段真ん中)はあるんだろうと思ったが、こいつを無理やり電気機関車に改造した車両があるなんて…しかも形式が「強行軍」。国産の電機には、機関車なのに車内にロングシートがあって客が乗れるという謎の車両もある(ヨーロッパにあるような、客車を牽引できる電車とは全然別物)。個人的には、スイスBLSの軽量客車が輸入されていたのに驚いた。
 しかし現状についての解説を読むと、この国がどれだけひどいことになっているかがよくわかる。相次ぐ停電でダイヤはあって無きが如しのようだし、事故も多発しているそうだ。だいたいどうやったら列車の転落事故で「2000〜6000人が死傷」するんだ?基幹交通機関であるはずの鉄道がそんな状況なんだから、他の部分も推して知るべしだろう。
 というわけで、値段は1900円と高めだがそれだけの価値と資料性は確実にあると思う一冊。