鉄道員 Il Ferroviere

 「鉄道員」。有名な映画ですね。言っとくけどキハ40改造のニセキハ12が出てくる高倉健主演のやつじゃないぞ。1956年のイタリア映画です。
 これは主人公が機関士なので、当然ながら当時のイタリア国鉄の列車が出てくる。というわけで、名作の誉れ高い映画でもあるし鉄ヲタ的にも観たかったのだが、どこにもビデオが置いてない。しかしこのたびDVDを入手したのでやっと観ることができました。作品の内容については映画に詳しい人がいろんなところに書いてるだろうから、ちょっと「鉄」的に気がついた場面を挙げてみる。
 最初のタイトルロールには、当然ながら「制作にはFS(イタリア国鉄)本部(経理か?)と技術部の協力を得ました」みたいな字幕が出る。そう書いてあるはずである。たぶん。しかしこれ、観た人はわかるでしょうが、内容的によく協力得られたなあと思う。今の日本なら京王でも許可しないぞきっと。
 本編は列車の前面展望シーンから始まる。複々線の一番左を走り(イタリアの鉄道は左側通行)、ポイントを抜け大きな駅構内へ。走行シーンの音楽は緊迫感があってなかなかいい。駅は、主人公アンドレア機関士の息子、サンドロ少年が走ってくるシーンを見るとローマ・テルミニ駅で間違いないと思う。
 このとき出てくる機関車は角張ったボディが特徴の当時の高速列車用電機、E428形の175号機。アンドレア氏は特急の機関士なので、この後もE428が出てくる。人身事故をやってしまうシーン(微妙にネタバレな気もするが、まあDVDのパッケージにも書いてあるから書いちゃっていいよな)で運転しているのもE428の186号機だ。客車は当時最新のtipo1946がメインの編成と思われる。塗装はcastano-isabella(茶色濃淡塗りわけ)。冒頭の駅への進入シーンや、走行中の電機の台車をアップで映した場面(どうやって撮ったんだろう?)は素直にかっこいい。
 ちなみに夜中に出発するシーンでは、特急のはずなのに短距離用のE424に乗っている(機関車ははっきりとは見えないが、E424の特徴である車体中央のシャッター式ドアが見えるのでわかる)のだが、もしかしたら実際にこういうことはあったのかも。なにしろ実物で撮ってるのだから。入れ替えで運転している「ボロ機関車」は835形蒸機だ。
 キャブ内のシーンでは、車窓は明らかに合成だが内部は実車を使っていると思われるので興味深い。E428は意外に窓が小さく視界はあまり良くなさそう。しかし運転しながらワイン飲むなよ。
 で、俺が一番注目したのは、人身事故より前、途中で雪の中を列車が走っているシーンです。一見なんてことはないが、これはさりげなくイタリア独特の三相交流電化区間だ。よく見るとパンタが横に2つ並んで付いているのがわかる。これは電気鉄道初期のシステムで、架線が2本あるのが特徴。幹線の電化区間で大規模に使っていたのはイタリアだけで、北部に多かったが30年くらい前に全廃され、今ではスイスのユングフラウ鉄道やゴルナーグラート鉄道くらいしかない。あまり映像も残ってないと思われるので貴重な場面。
 そのほか、街中のシーンでたくさん出てくる市電も単車2両の間に台車なしの中間車を挟んだ連接車とか、なかなか面白い。
 というわけで、鉄的にもいろいろ見どころが多い作品です。クリスマスの日が重要な舞台でもある作品なので、これからの時期にぜひ。しかし昔のイタリアの映画って子供が芸達者だなあ。