新政権下の鉄道を考える #1

 衆院選は大方の予想通り民主党の圧勝となり、政権交代が実現することとなりました。日本の政治にとって歴史的な転換点ということになるでしょうが、これは鉄道にどのような影響をもたらすでしょうか。

 私は自民党支持者ではないし、民主政権には期待したいと思っていますが、「鉄道の今後」について考えてみるとほぼ確実に言えることは、鉄道への追い風にはならないだろう、ということです。ご存知の通り、民主党マニフェストに「高速道路の無料化」を掲げているからです。


 最近は「鉄道ルネッサンス」とか、また「鉄道ブーム」であるとも言われ、鉄道が見直されているような雰囲気があります。「たま駅長」で全国的に話題になった*1和歌山電鐵など、地方ローカル線が脚光を浴びることも増えてきました。

 しかし、観光や話題づくりの面を離れ、純粋に「交通機関」として考えた場合もそういえるのでしょうか?「1000円高速」の実施以降、JR各社の輸送実績は大きく落ち込んでいます。私の近所でも長野電鉄屋代線の存続問題が出ていますし、不況ということもあるでしょうが、各地の地方鉄道は「順調に」右肩下がりの運営が続いているでしょう。先日、北近畿タンゴ鉄道で10年ぶりくらいに丹後半島に行ったのですが、天橋立周辺は駐車場の賑わいに比べ、駅の周辺は以前訪れた時と比較して大分人が減っているように思われました。私がよく乗る特急「しなの」も、最近はめったに自由席で座れないことがありません。

 実際のところ、「鉄道ブーム」というのは、あくまで一部のテーマパーク化した路線や施設、そして「鉄道趣味」が脚光を浴びているだけというのが真実なのではないでしょうか。交通機関としての鉄道は、大都市圏など一部を除いては今までの傾向通りどんどん落ち込んでいっているのではないでしょうか。


 高速道路が無料化されれば、この傾向に拍車がかかるのは確実です。速さでは高速道路に比べて圧倒的アドバンテージのあるはずの新幹線ですら、「1000円高速」の期間中に輸送実績が落ち込んでいることを考えると、地方在住者からみて今後もっとも苦戦が予想されるのは、高速道路が並行する区間の在来線特急ではないかと思います。高速道路利用と比較した場合、はっきりいって料金、スピードの両面であまり競争力があるとは思えないからです。

 在来線の特急を支えているのは、大半がビジネス需要でしょう。特に出張者の利用が多いのではないでしょうか(というのは、地方の地元企業の場合はそもそも車で移動することが多いから)。東京在住の私の友人でも出張の多い人間がいますが(私自身は出張はめったにない)、大方の場合の行動パターンは、新幹線で地方の拠点都市に向かい、そこから在来線特急に乗り換えて何カ所かの取引先を回る、といった感じです。まあ、地方への出張というのは大体そういう感じでしょう。

 しかし、新幹線が通っていないような地方都市の場合、地元企業の事業所というのは駅から離れた郊外の国道沿いなんかにあるのが最近の傾向です。そういったところを数カ所回ることを考えると、当然ですが車を使うほうが効率的、ということになります。実際、大都市圏からの出張者ではない地元のビジネスマンは車で回る訳です。地方では首都高と違って時間も読めます。高速道路が無料化されれば、今まで「レンタカー代と高速料金考えると電車かなあ…」として在来線特急を選んでいた層が、レンタカーと高速道路の利用に切り替えるというのは、大いに考えられることではないでしょうか。

 また、高速道路が無料になれば、高速バスとの競合もさらに激しくなるでしょう。特に、一般の路線バスではなく、いわゆる「ツアーバス」との競合です。
 ツアーバスはもはや格安旅行者のための隙間産業ではなく、交通機関として無視できない存在になりつつあります。例えば長野−東京間では何社かが昼行便を運行していますが、どれも2000〜3000円代で、しかも県内各地からきめ細かくルートが設定されています。いままではあくまで「節約したい若者や旅行者向け」と考えられてきたツアーバスですが、今や東京−大阪間では大手事業者が車内無線LAN装備、飛行機のファーストクラス並みシートのハイグレード車を投入してビジネス客の取り込みを狙うまでになっています。

 何より従来の路線バスとしての高速バスと比べて、圧倒的に価格競争力があるのがツアーバスです。今は1ルートで1日に何便も運行している例はあまりないようですが、例えば大手のツアーバス業者が地方の中小観光バス業者を束ねて「地方都市間を1時間ヘッドで運行」なんていうのも、全然考えられないことではないでしょう。


 さて、高速道路無料化で考えられそうなことをいくつか挙げてみましたが、では今後鉄道が生き残って行くためには何が考えられるか? 私も足りない頭でいろいろ考えてみましたが、それは次回。

 キーワードは「チケット販売システム」「駅の見直し」です。

(9/2追記)…と思ったら、日経の調査では「高速道路無料化でも6割弱『車利用増やさず』」だそうです。ほんとかなあ。

*1:いや、世界的にかも。海外の鉄道業界メールマガジンでも取り上げられていました