松電の明日はどっちだ

 25日、長野県の松本電鉄を中心とする企業グループであるアルピコグループは全体で182億円の実質債務超過に陥り、「私的整理に関するガイドライン」に基づき、メインバンクの八十二銀行など8金融機関に対し金融支援(債権放棄etc.)を要請。
 参考=同社インフォメーション
 松本電鉄というのは鉄道だけを見れば長野県内でも地味なほうなので、長野県外の人には意外かもしれないが、企業グループとしては交通以外にもホテルやスーパーや自動車学校なんかも持っているかなり大規模なグループです。
 で、要はその経営がうまくいかなくなったので再建する、という話になったわけだ。そうなるとやっぱり電車がどうなるのか気になるところだが、鉄道は基本的に存続する、と表明しているのでまずは安心だ。
 でも、正直言って松電の鉄道線(上高地線)というのは鉄道そのものの運営という点ではかなり微妙なポジションにある路線だと思う。
 手元にある1999年度のデータ*1を見ると松電の輸送密度は2364人/km/日。もっと新しいのがないかと思って検索したら日本民営鉄道協会の「地方民鉄の活性化と再生を求めて」(pdf)というレポートがあったので、これを見てみると2003年度の輸送密度は2093人/km/日だった。
 輸送密度2000人/km/日というのは国鉄末期にローカル線の廃止や三セク転換の基準となった「国鉄再建法」の規定でいう第1次、第2次特定地方交通線のボーダーラインになった数字だ。上記のデータを見る限り松電はこのラインを一応超えている、という感じだ。この数字を下回る地方私鉄は数多くある。
 まあ今や意味を持たない数字ではあるが、この数字を下回る私鉄の大半は、地元自治体などの支援を得なければ運営が難しいという状況になっている。逆に、大雑把に言って輸送密度2500人/km/日を超える鉄道の大半は一応運営が成り立っているようだ。上記のレポートでは、輸送密度1000人/km/日以上2000人/km/日未満の鉄道について「鉄軌道部分に限ると経営的に相当厳しい状態にあると言える」、輸送密度2000人/km/日以上4000人/km/日未満については「観光利用等に特化でき効率的な運行が可能な一部の事業者等を除き概して厳しく…」としている。要は利益(損失)がどれだけあるかが問題なので、輸送密度だけで一概には言えないが、似たような規模だと福井鉄道(2115人/km/日)は鉄道事業再建へ向け地元自治体に支援を要請、群馬の上毛電鉄(2182人/km/日)は県や自治体の支援を受け上下分離化へ、などの例がある。
 松電がそういった話とは無縁で今まで来たのは、国内でも有数の観光地、上高地へのルートになっている(上高地へのバスは基本的に全て電車の終点、新島々発着)ことももちろんあるだろうが、やっぱり企業グループの体力が支えてきた面というのはかなり大きいだろう。輸送密度だけで考えれば、今のような一大企業グループになっていなければ、同規模の中小私鉄各社のように沿線自治体の支援なしでは厳しい状況だったかもしれない。そういう意味では、グループの経営状況がよろしくない、という状況下ではちょっと気になる部分ではある。
 何はともあれ再建がうまくいってほしいものです。俺は現在は松本ではなく*2長野市在住だが、川中島バスアルピコグループ)ユーザーなのだ。

*1:「データブック日本の私鉄」ネコ・パブリッシング、2002年

*2:ちなみに松本時代の最寄り駅は松電の西松本だった。歩いて松本駅まで行ける距離だったけど